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ワキサカコウジ

ワキサカコウジのなりゆき観光コラム「こんつわタイランド」第9回

 新型コロなんとかの影響で外出もめっきり減って、ヒマなので部屋の整理をしていたら、クローゼットから見覚えのあるスーツが出てきたのでございます。それはバンコクで買った人生初めてのオーダースーツ。

 ……かれこれ10年近く前になるでしょうか。物価の違うタイでは日本よりお得にスーツを作れると聞き、試してみる気になったのです。向かったのは雑誌に広告が載っていた「日本語OK」だというテーラー。到着してみると郊外の小さなお店でした。ショーウィンドウのマネキンが、まるでバブル時代のようなダブルのスーツを着てらっしゃるのは気のせいでしょうか。一抹の不安を感じつつ、恐る恐るドアを開けると、そこには白ヒゲがもじゃもじゃのインド風なおじさんが。仙人とかではなく、ぎりぎりお店の方のようです。一応「日本語OK」のはずですから、「広告を見て来たんですが」と声をかけてみました。しかし、おじさんは「ん?」みたいな顔。ちょっと言い回しが難しかったでしょうか。今度はゆっくり「スーツの注文」と言ってみましたが、やはり「ん?」の顔。ふむふむ。この時点で薄々気付いちゃったけど、全然日本語OKじゃないよねチミ。……こうして初めてのオーダースーツは、カタコトの英語で作るハメになったのです。

   とりあえず店の奥に案内され、まずは生地見本を拝見。ここから好きなものを選ぶのですが、たくさんあって中々決められません。おじさんを待たせるのも悪いので、試しにお薦めを聞いてみると、なんと彼が指差したのは真っ白な生地。「君には絶対ホワイトしか似合わない」とか言うのです。……え?ご遺体以外でそんな事ある?と困惑している間に、おじさんがパタンと生地見本を閉じました。「はい、決定」みたいな雰囲気で。おじさんの顔もちょっぴり怖いし、断りきれず、そのまま流れで採寸へ。次にデザインを決めていきます。そして全体的なシルエットを決める段になって、ここでおじさんがついに最初で最後の日本語を発したよね。「ピチピチorユルユル?」つって。いや日本語OKってそれかよ!そしてどっちもやだよ!とにかく普通でいいと伝えてオーダーは終了。お値段は日本円で1万円ほどで、これにワイシャツとネクタイもサービス。確かにお安いかも。

   で、2日後の仕上がり日。僕はお店の試着室におりました。鏡に中に映っていたのは、得体の知れない純白のスーツを着た男。思ったより生地がペラペラで、下着がうっすら透けてるし、頼んでもない肩パッドも入れてくれてありがとね。これにサービスのワイシャツとネクタイを組み合わせればあら不思議。嘘みたいなチンピラの出来上がり。……もちろんそれから今まで1度も着る機会はなかったけれど、こうして話のネタになったんだから、やっぱりお得だったの<ね

貸したお金を回収する機会にしか使い道がないので、捨てようかと思います。


wakki_face ワキサカコウジ
イラストレーター

武蔵野美術大学卒業後、イラストレーターとなり、雑誌や広告を中心に挿絵を提供。『週刊文春』での連載は10 年に及んだ。『an・an』でのエッセイ連載をきっかけに執筆活動も行う。毎年七夕に見つけた面白い短冊を、ブログやインスタで紹介する「短冊チェック」という活動もしている。
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